ベートーヴェン「ハンマークラヴィーア」 : ゼルキン

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ホロヴィッツが別のピアニストに生まれ変わるとしたら誰が良いかと聞かれて答えたのが「ルドルフ・ゼルキン」だったとどこかで読んだ。(と記憶する。勘違いだったらごめんなさい。) 同い年の二人だが芸風はかなり両極端に違う。華やかで破天荒なホロヴィッツ、練習熱心で地味で優等生なゼルキン、というイメージがある。

ホロヴィッツの演奏は技術的に大きく衰えた晩年に限らず、その有り余る個性ゆえ曲によってはちょっと違うかもと感じてしまうことがままあるが、ゼルキンの演奏でそういう気持ちになったことは今のところない。どの曲に対しても誠実に丁寧にクオリティの高い演奏を聴かせてくれる。

69年に録音されたこの「ハンマークラヴィーア」は、ゼルキンの名前からイメージする演奏とはちょっと違う。悪い意味ではなく、期待をはるかに超えて良いという意味で違うのだ。

たまたまこのLPを見つけた時にポリーニの「ハンマークラヴィーア」もあったので両方買った。ゼルキンの演奏には渋い大人の演奏を、ポリーニの演奏には切れ味鋭い鋼の演奏を期待して買ったのだが、両方聴いてみて期待は完全に外れた。もう、最初から最後まであらゆる面でゼルキンの圧勝である。

最初の一音が出た瞬間からその煌きとパワーに圧倒される。ピアノを壊さんばかりの打鍵だ。ピアノがゼルキンに支配されて必死になってあらんかぎりの音を出しているように感じる。じっくりしたテンポなので、第一楽章だけで2分近くゼルキンの方が遅いが、むしろポリーニは何を焦っているのか、と感じる。自信に満ち溢れた素晴らしい演奏だ。

2楽章は一転して快速、あっという間にA面が終わる。3楽章のアダージョは深く陰影に富んで魅了する。転調するたびに表情がはっきりと変わる。実に繊細で温かい演奏である。終楽章もまた圧倒的な名演である。誤解を恐れずに言えばここでの鋼のタッチはそれこそホロヴィッツを彷彿とさせる。

録音は新しくないが、ピアノの響きを細かく捉えつつ、刺々しくなく聴きやすい。名盤だ。
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