SHURE Audio Obstacle Course

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オークションでSHUREが販売したオーディオチェック用レコードを入手した。その名も「Audio Obstacle Course」、オーディオ障害物競争である。

SHUREが誇るV15シリーズカートリッジのパフォーマンスを自宅のオーディオで測定するために作製されたレコードでV15シリーズがVersion Upするにつれてテスト用レコードも何種類か発売されている。途中で欠番があるかもしれないが、このレコードの初期バージョンがTR101、僕が入手したのはジャケットのとおりtype V登場時のものでTR117となっている。

ネット上の情報で見るとTR101は楽器の音を使ってtrackabilityのテストを行うようだが、TR117は様々なテストトーンを合成して人工的に過酷な音溝を作り出している。音楽を聴きながら楽しくテストという感じではない。

両面とも45回転で再生する。A面は左右、位相に加え、インサイドフォースキャンセラーの効き方のチェックができる。B面は本命のカートリッジのTrackabilityのチェックに加えてカートリッジとアームの共振周波数の測定ができるようになっている。

テストは英語のナレーションとともに進む。声の主はSHUREの開発者らしい。左右も位相も問題なく進んだが、インサイドフォースキャンセラーのチェックでまずつまづいた。ほぼすべてのアーム/カートリッジの組合せで加重が足りなかった。レコードのこの部分、針圧とインサイドフォースキャンセラーの組合せをきちんと調整しないとひどい音でしか鳴らない。真剣に調整するのはなかなか大変そうだが、後で時間をかけて調整してみよう。

テストそのものはB面の方が面白い。まずはTrackability。初めにmiss track時の音が収録され、miss trackするとどういう音が鳴るか教えてくれる。この音を記憶したうえで、録音レベルが1から6まであるテストパターンを再生するのだが、Series IIIとV15 type4の組合せがレベル4まできちんと再生できただけで、他のカートリッジは惨敗。さすがSHURE主催の障害物競争だけのことはある(笑)。コンプライアンス値の低いMCカートリッジはレベル3か4で軒並みmiss trackが始まる。聴感上の性能と機械としての性能は必ずしも一致しない。

個人的にこのLP全体の白眉は共振周波数のテスト。共振周波数は8Hz以上、できれば10Hzから12Hzが望ましいということだが、測定してみるとSeries IIIとType IVを除く組合せはすべて7Hzから9Hzまでの間で共振が起きた。総じて少し低めなのでシェルを取り換えるとかカートリッジとの組合せを考えた方がいいかもしれない。

このテストは実効質量が公表されていないアームとコンプライアンスの公表されていないカートリッジを使用する場合にはすごく便利。一方が公表されていれば、他方を推定することもできる。組合せたカートリッジの質量と公表されているコンプライアンス値から求めてみるとWE308の実効質量は14g~15gだった。オーディオテクニカとデノンの公表コンプライアンスは100Hzを基準にしているせいか実測から推定すると実際のコンプライアンスと相当違う。アーム側で公表されている実効質量から計算すると実測でAT50ANVが20前後、DL103PROが12前後だった。

共振というのは概念として理解していても実感したことがなかったのだが、このLPで測定すると一目瞭然。耳で聞いてもわかるのだが、その前に視覚的にはっきりと実感できる。WE308もFR64sもSeries IVも共振周波数のポイントでカートリッジがびっくりするくらいはっきりと飛び跳ねる。これでは確かにレコードの反りや床からの共振によって生じる周波数(~8Hzくらいらしい。)がプレーヤーに乗ると再生に影響するだろう。

テストLPのナレーションによれば「良くデザインされたシステムでは振動が押さえられる。」ということだ。確かにRigid FloatとSeries III/Type IVの組合せは共振時にもカートリッジが跳ねることはなかった。Rigid Floatは流体で、Seiries IIIに付けたType IVはダイナミックスタビライザーが振動を吸収しているようだ。試しにスタビライザーを上げて見ると13HzでType IVも激しく振動した。この結果から、このブラシの効果が見た目に反して絶大であること、他方、Type IVのカタログデータと僕の持っている実物でコンプライアンスにかなりの差があることがわかる。ダンパーが本来の柔らかさでないのかもしれない。SHURE製なのにTrackability試験に落ちたのもこれが原因かな。

上にも書いたとおり、このレコードのテスト結果と聴感上の良し悪しは必ずしも一致しない。とはいえ、これはなかなか楽しい遊べるレコードである。
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ちょっとご無沙汰してる間に

…こんな興味深いご報告が載ってたんですね! そうか、インサイドフォース・キャンセラーはやっぱり重要ですか…。あれについては間違った情報がネットでも横行してて、メーカーもきちんと説明しないのがイケないよんなァ…と思ってたんですが、さすが Shure は違いますね。一方、トラッカビリティに関しましては、個人的にはレコードによるところが結構大きいんじゃないかと思ってます。つまり、多くの普通のレコードでは Shure が追求してたレベルのトラッカビリティは要求されないんじゃなかろうか、って言う意味です。コンプライアンスの低いカートリッジでも結構イイ音がするモデルが多いのはそのせいなんじゃないでしょうか。あと、低域共振につきましては、ばけぺん様がこれまで幸運だったんだと思います。あれが始まりますと、シェルの重さを変えたり針圧を変化させてみたりしたくらいでは何ともならない場合が多いです。頼り甲斐があるのはオイル・ダンパーだけ、って感じです。同じモデルのカートリッジでも、起きるのと起きないのがあったりして厄介です。たぶん、別の問題でおっしゃってるように、ダンパーの経年変化が原因なんじゃないかと思うんですが…。

こんばんは。

のす爺ィさま、コメントありがとうございました。

ウエブ上、インサイドフォース・キャンセラーについては必要悪みたいな記述が多いものですから、針を落とした時に持っていかれない範囲で極力軽めにかけていたのですが、その状態ではテストトラックの右側の音がほとんど再生不能でした。Rigid Floatにはキャンセラーがなく、その分針圧を重めにすることが推奨されているのですが、針が溝の左右に振られて周期的に左右の音が大きくなったり小さくなったりと散々でした。「百読は一聴に如かず」です。

トラッカビリティについては私も同意です。テストトラックでは連続して聞こえるのでわかりやすいですが、実際にレコードを聞いてて一瞬のピークでMis Trackしても気づかないことが多いと思います。僕が聴くレコードの中で最も条件が厳しいのはオペラや声楽入りの交響曲で、これなんかは実際、カートリッジの限界がよくわかります。DL103では2.5g針圧をかけてもテノールやソプラノが絶唱すると音が歪んじゃいますが、Type IVは何の問題もなく再生します。ただ、悲しいかなクラシックファンは最もShureのカスタマープロファイルから遠そうですね。(総じてアナログからも。)CD登場以降、高トレース能力、全体域フラットというV15シリーズはデジタルとガチンコ勝負になって滅んでしまった感じがします。結果的には中低音が厚くて高音域のトレース能力はまあまあというM97Xeだけが生き残りましたし。

共振のことを実感してからアーム/カートリッジの組み合わせが本当に複雑な問題だということがわかりました。フォノイコにサブソニックフィルターが付いている理由もよくわかりました。共振時、カートリッジが跳ねているだけでなく、ウーファーが見たことがないくらい前後に振動してましたから。僕のスピーカーは口径が小さいので空振りしているだけですが、大口径ウーファーが当たり前のアナログ全盛期にはさらに大問題だったと思います。しかし、本当にアナログは奥が深くて面白いですね。
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