SL-1200の開発者インタビューを読んで思ったこと。

テクニクスのSL-1200と言えば有名なDJ御用達プレーヤー。72年の初代発売から6代目まで改良を重ね、2010年にテクニクスが撤退するまで世界で累計350万台も売れたそうだ。確認したわけではないが世界一売れたレコードプレーヤーではないだろうか。ちなみに今月の初め、パナソニックが「テクニクス」ブランドを復活させると発表した。今のところ、アナログシステムはラインナップにないようだが、ブランド復活が順調に進めばアナログの復活もあるかもしれない。楽しみだ。

SL-1200は今でもDJ達にとっては絶対的な標準機で中古品もまだまだ人気がある。そうしたDJの人達をメインターゲットにするレコード/オーディオショップがSL-1200の開発者にインタビューした記事をネット上で見かけた。

SL1200開発者インタビュー

思い入れたっぷりのインタビュアーの質問に答える開発者の方のひょうひょうとした感じが面白い。このインタビュー記事の中に以下の件がある。

Q : アーティストはアナログレコード出したいって思うやん。DJとかやってたら特にね。アナログのいわゆる、音質とか、デジタルじゃ表現できないダイナミクスな部分とか、そういう点に関してはどう思いますか。
A : 俺はね、ええ悪いじゃなしに、アナログを聞いた方が、柔らかくて、心地いいんやね。音的にね。
Q : それはなぜ?
A : アナログレコードの音は、「音質が良い」っていうよりも、右と左の音が必ずきれいに分かれてるわけじゃなくて、うまいことミックスされてるんよね。ところがCDの場合はLとR、完全に右と左の音完全に分けてしもうてるわけでしょ。それが何か違和感に感じるような音に聞こえてくるんですよ。ただ、アンプに通すからもう少し落ちてくることは確かやけども。CDはレコードに比べたら分離度はもっと高いですよ。倍以上ですよね。でもそこに違和感がある。それは人の好みによって変わるから一概には言えないけどね。だって「CDは高いとこから低いところまでいっぱい入ってるからええねん」とかいう人もいてますし。


今まで雑誌やウェブでアナログとデジタルの違いを論じた記事をたくさん目にしたが、このやり取り以上に説得力のある説明を読んだことがない。

CDの記録データの限界からデジタルの限界を論じる人はたくさんいるが、そこからソフトとしてのレコードの優位性やハードとしてのレコードプレーヤーの優位性を導く出すことについては現実的に疑問を感じる。この記事を書きながら久しぶりにCDを聴いているが、無音の中から出てくる音には疵一つなく、実に見事である。仮に理論上、レコードに同じ音が刻まれていたとして、ここまでのレベルで音を取り出すのは容易ではない。実感として、LPの方がCDよりも音が良いという意見には大いに疑問符を抱く。

であるにもかかわらず、僕の音楽鑑賞は今では95%以上、レコードだ。どうしてレコードにここまで惹かれるのか自分でもよくわからなかったのだが、この記事を読んで大いに合点がいった。語弊を恐れず言えば、CDの段階ですでにデジタルは音が良すぎるのである。あるいは、より実演の再現に近づけようとして失敗したということかもしれない。

日本が世界に誇る技術にロボット技術があるが、ロボット工学ではすでに70年代、日本の学者によって「不気味の谷」という現象が提言されていた。はっきりおもちゃとわかるロボットが進化して外見上人間に近づくにつれ、ある時点から人間はそのロボットに強い嫌悪感を感じるという話。この説が正しければそうしたロボットが完全に人間と同一視できるところまで進化すれば嫌悪感はなくなるということだが。

デジタルも今以上にハイレゾ化が進み、再生機器のレベルも上がれば、そのうちなんの違和感もなく眼前にオーケストラやライブバンドが浮かび上がってくるのだろうか?そのためにはソフトや機器だけでなく、再生する側の環境も相当のレベルにする必要がありそうだ。

少なくとも我が家のレベルではデジタルとアナログ、「不気味の谷」により近いのはデジタルの方である。
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聴覚生理

ばけぺんさん こんばんは。

人間の聴覚生理といいましょうか それは必ずしも優れた特性の音と一致しないのかもしれませんね。

文中にも書かれているように 人間界では存在しないような無音、静けさが時としてデジタルでは表現できる場合があります。最近の機械はよりS/N比が高いのをウリにしているようですね。

私はクリーン電源も実は昔使っていた事もあるのですが そこまでしなくても…と使用は止めました(笑)

私も今は殆どアナログレコードしか聴かなくなりましたがデジタルには否定的でもありません。 先ほど人間界では存在しないような静寂さと書きましたが ドロドロだらけの(笑)人間界から 音楽で逃避したいという時には この世のものとも思えない静けさのある音、音楽を聴きたいと思う人もいるかもしれませんねぇ。

「不気味の谷」のコメントは興味深いです。

こんにちは。

キタサン、こんにちは。コメントありがとうございました。

「良い音」の定義は本当に難しいなと思います。そもそも音楽を鑑賞するという行為に「良い音」は必要ないのかな。

それに、人によってノイズの少ないS/N比の高い音の再生を目指す、3D再現を目指す、生々しさみたいなものを目指す、といったそれぞれの方向性が違うので、オーディオの評価もなかなか難しいですね。

私もずっとCDを楽しんでいたのでデジタルが悪いとも思わないし、嫌いでもないのですが、現実的にはレコードばかり聴いてしまう自分がいます。私の家での再生レベルではどこかに違和感が残ってしまうみたいです。

興味深い情報を…

…有り難うございます。ご紹介下さったインタビュー記事にはDJ用途の関連の話が多かったんで飛ばし読みしたんですが、特にトーン・アームの調整についての部分が興味深かったです。以前から何となく感じていたことを裏付けるような内容でした。要するに、支点の機械的なアソビの量が非常に重要だということで、これはやはり数値化してコントロールできるようなオーダーのものではなさそうですね。同一モデルのアームなのに明らかに音が違うといったケースも、これが関係してる可能性があるような気がしてます。いずれにせよ、精密加工の度合いを競うかのような宣伝文句はやっぱり怪しい…つまり、PRのための見せかけ…っとまで言っては言い過ぎでしょうけど、音質との相関関係については眉唾モノなんじゃないでしょうか。
インタビュー記事だけでなく、ブログ自体のアナログとデジタルの音の比較もたいへん興味深く読ませていただきました。個人的にはCDよりもLPの方が音が優れているとは思ったことがなかったんで、(←LP時代のレコードをCD化したものについては音が悪くなっている例がいくらもありますが、これは別のハナシですんで…)この左右の分離という要素が大きそうだというこの話も納得させられるものでした。

のす爺ィさん、こんばんは。

こんばんは。コメントありがとうございました。

アナログの場合、レコードそのものが偏心してたり多少なりとも反ったりしていることも多いので、アームの精度だけをいくら上げてみても仕方ないかもしれないですね。アームの支点はそうしたレコード盤の不備をもうまくいなしてくれるものが一番だと思いますが、カートリッジやシェル等々との組み合わせもあるでしょうし、変数が無限なので何が一番良いのかはぜんぜんわかりません(笑)。ただ、この良くも悪くもアバウトなところが最大の魅力と感じております。とことん突き詰めるのは難しそうですが、ちょっとした努力に対してもきちんと反応して音が変わってくれるところも素晴らしいです。デジタルはそういうところが可愛くないです。

うむ、おっしゃる通り

…ですなァ! 以前、多数のSPレコードをデジタル化するバイトをやったという人から聞いた話を思い出しました。彼の話では、最も苦労したのが、ばけぺん様のおっしゃる「偏心」だったそうです。

「とことん突き詰めるのは難しいが、ちょっとした努力に対してもきちんと反応して音が変わってくれるところが可愛くてイイ」というのは、実に実に的確かつ論理的な表現ですね! なんとなく感じていたことを明確に言葉にしていただき、有り難く感じております。

Nakamichi

こんばんは。コメントありがとうございました。返信が遅くなってしまいました。

レコードを聴き始めてトーンアームが左右に揺れるのを見て「偏心」に気づいたのですが、今回コメントをいただいてふとネットで検索するとけっこういろいろ出てきますね。気にする方はレコードのセンターホールをマニュアルで広げて中心を出しているみたいです。すごい努力。

と思ったら、nakamichiは80年代にレコードの「偏心」を自動調整するプレーヤーを販売していたんですね!さすが技術系日本企業。そこまでこだわってくれたら結果はともかく実物で遊んでみたくなります。

エーッ?!そっ、そんな…

…プレーヤーが! とビックリしてネットを検索したら出てきました。TX-1000 ですね。80年代というのは私が完全にこの手の趣味から遠ざかっていた時代で、こんなプレーヤーについては存在すら知らずにおりました。いつもながら興味深い情報を有り難うございます。

ナカミチの主張は非常に納得できるものだと思うんですが、この考え方を追求するメーカーが他に現れなかったのみならず、このモデルそのものもマニアの方々の間で必ずしも珍重されているような感じもしないんですが、なぜでしょうかね・・・。
やはり、アナログ・オーディオっていうのは、ひたすら精密性を追求していくというのとは相容れないものを、その本質に宿してるからなんでしょうか…。

個人的にはこの手のプレーヤーが欲しいとは思いませんが、これが主流にならなかったのみならずほとんど忘れ去られかけている(…のかどうかも実は知りませんけど…)という事実そのものが、考え始めると何だか非常にファンダメンタルな問題に繋がっているような気がしてきて、興味が尽きません。

いや、刺激的なお話をどうも有り難うございました。

こういう力業けっこう好きです。

こんばんは、コメントありがとうございました。

はい、フラッグシップがTX-1000、その後、簡易バージョンのDragon CTというプレーヤーもあったようです。Dragonの方はまれに中古で出ることがあるみたいです。僕が音楽を聴き始めたのは80年代初めですが、その頃こんなすごいプレーヤーが存在していたとはびっくりです。nakamichiと言えばカセットテープレコーダーしか知りませんでした。

このプレーヤー、「偏心」への対応はすごいものがありますが、レコードの反りに対してはオーディオテクニカが出していた吸着ターンテーブルシートの専用バージョンが用意されていただけみたいなので、左右の揺れ対策に比べると上下の揺れ対策はぼちぼちのような気がします。トーンアームも別売りなのでその相性も含め、やっぱりすべての不確定要素に完全対応するのはなかなか難しいですね。

高価だし、ダイレクトドライブ、フローティング構造といったところもマニアにとってはイマイチ盛り上がらないのかもしれません。

とはいえ、個人的には消費者のニーズを満たすという名目で実はメーカーが自分の持つ技術の腕試しをしてしまったようなこういう力業系の製品はけっこう好きです。ここまでしてくれたら効果はともかくメーカーの熱意に負けちゃいます。まあ、所期の性能を発揮するためにはアームやらカートリッジやらいろいろノイローゼになりそうなくらい頑張って調整しなければならないと思いますが。。。

音楽を聴くよりもいじって楽しい機械なんでしょうね。
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