ベートーヴェン交響曲第5番「運命」 : フルトヴェングラー

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今年のクラシック福袋に入っていたレコードのうち唯一手持ちのレコードと重なったのがフルトヴェングラー/BPOによる「運命」のアルバム。フルトヴェングラーの「運命」には戦前からかなりの種類の録音があるが、これは1947年の録音。晩年のウィーンフィルとのスタジオ録音と並んでメジャーな演奏である。

僕が初めて聴いたフルトヴェングラーの録音は有名なバイロイトの「合唱」だった。フルトヴェングラー特有の揺れ動くテンポに加え、買ったLPがモノラルではなく疑似ステレオの廉価盤だったせいもあって終始船酔いしそうなメロディラインにまず面食らったが、それよりなにより驚愕したのはやはりフィナーレ。それまで、音楽が壊れる寸前まで加速する演奏なんて聞いたことなかった。しかも一度聞いてしまったら、これ以外の終わり方はあり得ないくらいの説得力がある。素直にすごい指揮者だと思った。

他にもフルトヴェングラーのベートーヴェンを聴きたいと思って買ったのがこの「運命」。写真の左側のアルバムである。疑似ステレオにはこりごりだったので今度はモノラルを買った。

「合唱」ほどではなかったが、「運命」にもやはり驚かされた。まず驚いたのは音が揃っていないところ(笑)。いきなり出だしの「ジャジャジャジャーン」から「ダジャ、ジャ、ジャ、ジャーン」てな感じだから。(ただ、いろいろ聞くと冒頭の部分は確信犯らしい。) 高校生だった僕はBPOって意外と下手なんだと思ったのが事実である。とは言え、全体を通じてどんどん熱を帯びて加速していく音楽には本当に痺れた。この演奏を聞くとインテンポの演奏はみなつまらなく聞こえてしまう。かなり後になってトスカニーニの演奏を聴くまでその思いは変わらなかった。

久しぶりに同じ「運命」が手元にやってきた。CD時代に入ってからモノラル録音のクラシックはほとんど聞かなくなったのでフルトヴェングラーのベートーヴェンもご無沙汰である。懐かしみながら聞いてみた。すると印象が全然違うのである。はるか昔聴いた時は演奏に感動しつつ、音質に大きな不満を感じていたのだが、今、聞いてみるとあんまり気にならない。もちろんステレオの広がりはないが、問題はそれだけ。弦楽器の潤いも金管楽器の輝きも十分感じられる。機材が違うせいだろうか。

左右二種、ご覧の通りジャケット写真の色はずいぶん違うが、左側の運命は30年近く放置されていたので多分にその影響があると思う。一番の違いは生産国。左側は日本製、右側はシールが貼ってあるとおり(西)ドイツ製である。ジャケットから判断すると右側のプレスは77年。片や国内盤も購入時期を考えるとおそらく年代は大きく変わらないだろう。興味を持って左側の国内盤を聴いてみた。

案の定、音がだいぶ違う。ただし、国内盤も記憶ほどは悪くなかった。一点、明らかに違うのは音圧。日本製の方が音圧が低く、そのせいもあってか全体にくぐもって抜けが悪い。なあるほど、レコードというのはプレスの時期や場所で音が違うんだ。まあ、CDでもそれは一緒かもしれないが。中古レコード店によっては原産国を大きく表示しているのも納得である。常にドイツ盤が良いとは限らないだろうが、これからはもう少し関心を持っても良いかもしれない。

ところで47年の「運命」は数あるフルトヴェングラーのライブ録音の中でも時代を画す大きな意味を持っている。この録音は、ナチスとの関連でしばらく指揮台に立てなかったフルトヴェングラーが終戦後初めてBPOと演奏した記録だからである。であるにも関わらず、日本盤の裏に印刷された解説にはそのことが一言も触れられていない。ドイツ盤の裏側にある解説は英独仏三か国語表記なので分量は少ないが、何はさておきこの演奏の歴史的な意義が明記されている。一方、日本語解説は解説者のフルトヴェングラーに対する個人的な思いが綴られているだけ。結果、僕がこの演奏の位置づけを知ったのは何年も後のことだった。もう少し、読んで価値のある解説を載せてほしいなあ。
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No title

 今日も興味深く記事を拝見しました。最近はフルトヴェングラーの指揮する演奏を、自宅ではほとんど聴かなくなってしまいました。先日、知人宅で魔弾の射手その他の録音を聴き、その音質の佳さに驚きました。昔のLPとは凄く違います。お書きになっている通りでした。佳い時代になったのですね。
 私もフルトヴェングラーでは、ベートーヴェンの第5番や第九番をよく聴いたものです。第5番では、アンサンブルが合っていなかったり、クラリネットが飛び出たりするのですよね。でも、緩急強弱自在のその音楽演奏には、驚きましたね。
 最近、ヴァイオリンの巨匠デュメイさんが我が群響に客演してくれて、プログラム後半にベートーヴェンの第五番をやってくれたのですが、それがフルトヴェングラー並みの音楽表現にびっくり。今時、こんな指揮をするのかと、大いに楽しみました。実演ならではの経験です。
 

バルビさん、こんにちは。

こんにちは。コメントありがとうございました。

私も実に久しぶりにフルトヴェングラーのレコードを聴いて記憶の中の音との違いに驚きました。高校生の頃に戻れる訳ではないので当時の音が実際はどうだったかは検証しようがありませんが。その頃の機材に比べれば現在の機材はずっとマシなのでやっぱりそれが原因で良い音に感じるのかなと思います。

加えて、この時代に比べてはるかに録音技術やメディアが発達して「音」が良い演奏で溢れている現代の方が本物の演奏のインパクトは大きいのかもしれません。この演奏を聴いていると「音」はぼちぼちでもいいやという気持ちになります。

不勉強にしてデュメイが日本で指揮していることすら知りませんでした。しかもなかなか大胆な演奏をするんですね。とても興味深い話です。
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