ベートーヴェン交響曲第7番 : クライバー

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クライバーの7番にはレコードデビュー当初のウィーンフィル盤もあるが、こちらは82年5月に行われたバイエルン国立管弦楽団とのライブ録音。ベーム追悼コンサートとして4番とともに演奏・収録されたが、チャリティ目的で早々にレコード化された4番と違って、この演奏は長らくリリースされなかった。4番同様にオルフェオレーベルから発売されており、マルチチャンネルありのハイブリッドSACDになっている。企画物を除くとクライバーのSACDはほとんどないのでその点でも貴重だと思う。

SACDステレオレイヤーで聴いてみた。ライブの雰囲気そのままに拍手から始まる。会場からのノイズも結構聞こえる。演奏が始まると4番と同じように抜群のテンポとリズム感で冒頭からぐいぐいと引き込まれる。フルサイズのオーケストラにしては全体に軽やかな響きだが、クライバーの指揮との相性はすごく良い。木管の響きが特に美しい。

第2楽章は実にスピーディでかつ緊張感に溢れた演奏である。一瞬の淀みもない。ここでもオーケストラはクライバーの指揮にきっちり付いていく。部分部分ライブならではの危なさもあるが、それすらこの演奏の魅力と言える。最後の弦のピチカートが鮮やかで印象的。

第3楽章もすごい迫力。中間部の強奏時は全力だ。弦楽器が細かいパッセージを受け渡していく時の畳みかけ感がすごい。すごいすごいと思っているとほとんどアタッカで最終楽章に入る。その後はもう興奮のるつぼだ。これでもかこれでもかという感じでどんどん音楽は盛り上がり、そしてフィナーレ。

最後の拍手、遅れてのブラボー、足踏み。聴衆も大興奮の超名演。

輸入盤だからなのか、もしかしたらすでに廃盤なのか、この演奏はレコ芸の名曲名盤500では1点も得点していない。対照的にウィーンフィル盤は1位に選ばれているが、興奮と感動から言うと個人的にはこちらが上だと思う。

CDレイヤーで聞くとオーケストラの広がりが薄れ、楽器の分離が悪くなる。良くも悪くも音が荒っぽい。その分、ライブ演奏の危うさみたいなものは増して聴こえる。どっちにしても演奏の素晴らしさを伝えるには不足なし。名盤。

ブルックナー交響曲第5番 : アーノンクール

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今日最後の棚卸はアーノンクール/ウィーンフィルのブルックナー第5番。この組み合わせの第9番の演奏が録音を含めてかなり良かったので期待して購入したSACD。神保町のディスクユニオンで新品が捨て値で売られていた。ラッキーであった。

9番には付録としてアーノンクールの解説付きで4楽章の演奏が収められていたが、こちらは本番の演奏と同じくらいの長さでリハーサルが収められている。このシリーズ、ずいぶんサービスが良い。

9番でもそうだったがここでのアーノンクールの解釈は至極まっとうである。ハース版+ノヴァーク版+ノヴァーク改定版といういかにも理屈っぽい版の選択だが聴いててほとんど気にならない。(と思う。もしかしたら「ながら」聴きだったからかもしれない。)

終始安心して聴いていられる演奏だ。ヴァントの演奏に比べてもティンパニは効果的に使われており、合わせて低弦に弾力と力を感じるバランスである。全体の録音バランスはヴァント盤よりこちらの方が良い。とはいえ、オーケストラもホールも違うので録音そのものの問題ではないかもしれない。

終楽章、最後の盛り上がりは非常に良い。ティンパニが盛大に下支えする中、少しずつ減速しながら大きなフィナーレを作る。外連味があって個人的には好きな演奏である。大変満足の一枚だった。

ブルックナー交響曲第5番 : ヴァント

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ヴァント/ベルリンフィルによる交響曲選集の中で最初に録音された演奏。エソテリックが企画に参加して日本でSACD化されている。

実に良く考え抜かれたテンポ、構成だと思う。最初から最後までどの部分を切り取っても納得。ヴァントのブルックナーはもっと若い頃の録音も含めて外れはないと思うが、ここではやはりベルリンフィルを振っているのが大きな付加価値になっていると思う。化粧の少ないライブ録音らしく、細かいところで技術的に完璧ではないが、全体を通じて余裕を感じる演奏である。

この曲の演奏を一枚だけ選ぶとすれば、この演奏かな。不満を言うとすれば、BPOが余裕過ぎて最後の盛り上がりでもテンションがそれほど高くならないところだが、プロフェッショナルな演奏であることに変わりはない。繰り返し聴いても飽きることのない素晴らしい演奏だ。

録音は普通に良い。エソテリックのSACDシリーズはあまり印象が良くないが、この録音では特に不満は感じなかった。強奏時のここぞという時にパワーがもう少し感じられればなお良かった。

ブルックナー交響曲第5番 : ズヴェーデン

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ズヴェーデン/オランダ放送フィルのブルックナー交響曲全集第4弾。

先に出た4番、9番とも50才台前半の指揮者とは思えない落ち着いた演奏だった。5番の開始も非常にゆっくりとしたテンポで始まるのでその印象は途中まで変わらなかったのだが、中間部でけっこうなアッチェレランドがかかる。ちょうどフルトヴェングラーやドホナーニがテンポを上げるのと同じところだ。楽譜に指示があるのだろうか。ただ、この演奏の場合、そこよりも第一楽章の終結部に驚く。弦のピッチカート以降、聴いたことのないようなテンポで最後まで進む。ちょっと意外なほどのテンポの変化である。

第二楽章は弦楽器の扱いに長けたズヴェーデンの得意とするところだろう。終始美しいヴァイオリンに低弦部や木管、それに控えめな金管の音がブレンドされてとても素敵な演奏である。

第三楽章は若々しく爽やかな好演。オランダ放送フィルというのも上手なオーケストラだ。

第四楽章は途中、金管のコラールが厳かに登場するまではゆったりとしたテンポなのだが、それ以降は第一楽章同様、予想以上にテンポがあがる。いつも通り弦楽器群は頑張っているものの、これまで聴いたズヴェーデンの演奏と比較し、特に後半は金管とティンパニの活躍が目立つ。最後は大きなコーダを築くがここでもアッチェレランドがかかり駆け足で演奏を終わるイメージ。なかなか個性的な演奏である。

このシリーズの他の録音と同様、録音はすこぶる良い。

ルスランとリュドミラ序曲 : ムラヴィンスキー

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以前ショスタコーヴィチの交響曲第6番を取り上げたムラヴィンスキーのモスクワライブ。2枚組みのSACDの1枚目が71年、2枚目が65年のライブ録音であり、後者の1曲目を飾るのが「ルスランとリュドミュラ序曲」である。

コンサートのアンコール曲として、あるいは、オーケストラのショーピースとしてよく取り上げられる有名な小品だが、ムラヴィンスキー/レニングラードの演奏はもう凄いの一言。参りました。

猛烈に速いテンポだが、どの楽器もすべてのフレーズを完璧にきちんと最後の音まで演奏している。当たり前のようだが、特に速いパッセージではテンポについていけず楽譜の指示どおり弾けずにごまかしてしまうような演奏になりがち。同じロシアの演奏で同じようにテンポの速いゲルギエフ/マリインスキーの演奏がYouTubeで観れるが、どこかぎこちない瞬間がある。チェロの歌い方もムラヴィンスキー/レニングラードに比べるとずいぶん浅い。とにかく圧巻の演奏だ。

加えてこの録音、ムラヴィンスキーの演奏記録としては奇跡的に鮮明な録音である。「ソ連としては」というレベルではなく、この年代の録音ではかなり上質な録音だ。(たとえば同時代のCBS録音よりはるかに良い。)このクオリティでムラヴィンスキーのすべての演奏が残っていたらどんなに良かっただろうか。。。

ブルックナー交響曲第9番 : アーノンクール

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断片的に残された4楽章の演奏とアーノンクール自身による解説で進められたワークショップの録音と3楽章までの演奏がセットになった2枚組みのハイブリッドSACD。

ワークショップの方は、実はまだ聴いたことがない…。が、後に出たラトルの補筆版演奏を聴いた時にはかなりの違和感を感じた。ブルックナーが書いたものをベースにしているのにブルックナーのように聞こえない。

通常の3楽章までの演奏に関して言えば、アーノンクールのブルックナーの中では圧倒的に名演だと思う。アーノンクールの指揮と限定せず、9番の演奏としても名盤の一つではないだろうか。繊細な弱音で奏でられる弦楽器の美しい響きと強奏時でも下品にならない金管、ふくよかな木管がたっぷりめのホールトーンの中で溶け合って実に良い感じだ。テンポは時に思いがけないほど快速になるが、軽い印象を与えず演奏全体に適度な緊張感をもたらしている。

ちなみにこの演奏、以前、サラウンドシステムを揃えていた頃にSACDサラウンドで聴くた時には全身が音に囲まれる感じで非常に良かったのだが、現在の環境ではステレオでしか聴けないのが残念。(ステレオでも音が悪いわけではないが。)

マーラー交響曲第6番 : エッシェンバッハ

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エッシェンバッハが音楽監督時代、フィラデルフィア管との関係は必ずしも盤石ではなかったようだ。そもそも音楽監督に選任された年の前4年間一度も共演したことがない指揮者を音楽監督に任命するマネジメントもどうかと思うが、そうした中で就任したエッシェンバッハもそれを迎え入れる楽団員も複雑な思いであったに違いない。

結果的には2003年から2008年までという短期間の任期に終わった上にフィラデルフィア管が財政破綻するなど良いイメージがない。このCDは任期ちょうど半ばの2006年に録音されている。

そんな両者の演奏なのだが、CDに刻まれている音楽は実に立派なものだ。一流の芸術家同士の共同作業は単なる「好き嫌い」で左右されるようなものではないのか。はたまた不幸な始まりだったが数年間の付き合いでお互いを分かり合えたのだろうか。

この演奏、表面的にはスマートでモダンだが細部はかなりデフォルメされていて、けっこう灰汁が強い。バーンスタインのマーラーはこれよりずっと灰汁が強いが、それは指揮者自身のマーラーへの共感、思い入れがストレートに表出したものだと思う。

一方、エッシェンバッハのマーラーはかなりの曲者。聴かせどころはがくっとテンポを落としてこれでもかと歌ってくれるし、アンダンテは「どうだ悲しいだろう?」とばかりに聴き手に迫ってくる。どことなく作為的だ。

こういう演奏は嫌いな人もいるかも。しかし、僕はこういう演奏も好きだ。少なくとも、激しくも美しくもない演奏よりは遥かに良い。フィラデルフィア管の演奏はいつもながら完璧。ライブとは思えない無傷の演奏である。SACDハイブリッドのCD層で聴いたが、録音も特に不満ない。6番が好きな人なら必聴の一枚だと思う。

シューベルト弦楽五重奏曲 : 東京カルテット

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今年の6月に解散した東京カルテットのハルモニアムンディへの最後の録音となった3枚の中の一枚。

室内楽はあまり聴かないので曲も多くは知らないが、シューベルトの弦楽五重奏曲は若い頃からずっと好きな曲の一つだ。最初から最後までどこまでも美しい旋律だ。快活なメロディにもそこはかとない悲しみが纏綿としていて心を打つ。

東京カルテットの演奏はこの名曲の魅力をあますところなく伝えている。もっと激しく情熱的な演奏は他にもあるが、いかにも成熟して落ち着いた演奏だ。公式サイトにある解散までの道のりを踏まえるとこの曲を録音したのは日本人メンバーがカルテットから引退することを決めるよりも前になるが、惜別の演奏としシューベルトの遺作であるこの曲は最適だったと思う。

ブルックナー交響曲第9番 : ズヴェーデン

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「ロマンティック」から始まったズヴェーデン/オランダ放送フィルのブルックナー録音第3弾がこの9番。「ロマンティック」は他と一線画す弦楽器メインの演奏がとても良かった。中古ショップで発見し、購入。

「ロマンティック」に比べるとごくノーマルな演奏。開始からしばらくしての主題提示や第一楽章フィナーレ直前では金管がきちんと主役になっていてサプライズはない。第二楽章もオーソドックスだ。と、書くと否定的に聞こえるが、ホールトーンたっぷりの優秀録音で良い演奏が聴ける。こちらの期待が少し過剰気味。

この演奏の聴き所は第三楽章。もともと弦楽器優勢な楽章だが、期待に違わずたっぷり歌わせて聴かせてくれる。非常に美しい音だし、弦楽メインの箇所だけでなく、金管がメインを務めるパートで支え役の弦楽器の音階が非常にクリアに聴き取れる。この当たり「ロマンティック」にも共通して新鮮な印象だ。とても美しい演奏だが、例えばカラヤンの演奏のように磨きぬかれた美音がものがなしく聞こえるようなところはない。聞き終えてすっきりする健康的な演奏である。

マーラー交響曲第2番「復活」 : ジンマン

ジンマン・チューリッヒトーンハレ管弦楽団のマーラー全集はバーンスタインの情熱の対極にある。

バーンスタインに比べれば客観的で冷静なアプローチのアバドやブーレーズとも、純音楽的かつ豪快なショルティの演奏とも違う路線だ。もっとずっとクール。しかし、この人ならではのやり方で、スコアに根拠のある範囲で細部にこだわった演奏なので聴いていて面白い。他の演奏では聞こえない音がいろいろ聞こえてくる。

ジンマンのマーラーは9番、7番に続いての購入になるが、このSACDも5枚組み2,000円コーナーで発見。スウィトナーのシューマンは定価も1,000円そこそこの通常CDだったが、これは二枚組ハイブリッドSACDなので値落ちが著しい…。きっと買ってがっかりの人が多いのだろう。

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第一楽章、冒頭のコントラバスの斉奏を聴いてこれは人気ないだろうなぁと思った(笑)。なんてったって迫力がまったくない。ブロムシュテットの演奏で書いたが、この曲はこの部分でがっちり聞き手の心を捉えないと後が続かない。まあ、そこは指揮者がジンマンである。少し我慢して聴いてみる。するとやはりなかなか面白い。ヴァイオリンのフレーズを切ってみたりつなげてみたり。他の演奏なら大爆発するようなところを意図的に抑えてみたり。飽きさせない。

二枚組SACDの一枚目には第一楽章のみ収録。マーラーの指示どおり、第一楽章終了後、ゆっくり休憩時間が取れるように配慮されている(のだと思う。)ということで僕もここでコーヒーを淹れて飲むことにする。

30分後、鑑賞再開。第二楽章はジンマンの室内楽的なアプローチに合うので安心して聴ける。第三楽章はティンパニがここまでの展開では予想外の迫力をもって開始する。第四楽章の落ち着いた叙情を含め、中間楽章はみんな出来が良い。

最終楽章は壮麗なドラマが展開される。この楽章に限れば音圧も十分。盛り上がるところはきちっと盛り上がる、が、全体の印象はやはり非常に静かだ。最強音でもなんというか熱を帯びない。丁寧なクライマックスまで実にコントロールの効いた演奏である。この曲に嵐のような展開や破綻一歩前の強烈な盛り上がりを期待する人には物足りないかもしれないが、マーラーの場合、そうした演奏は結構選択肢が多いので、個人的にはジンマンのような演奏があっても良いと思う。

録音は弱音から強音までダイナミクスが非常に大きく、加えてSACDなので基本の録音レベルが低い。かなり音量を上げないと弱音が聴こえない。このSACDを聴いて第一楽章冒頭で嫌いにならないためには、いつものヴォリューム位置から思い切って上げて聴く方が良い。

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